東京高等裁判所 昭和27年(う)3629号 判決
被告人 山谷政行
〔抄 録〕
第一点について。
原判決の認定した起訴状記載の公訴事実はその挙示する証拠を綜合すれば優にこれを認めることができ、この点に関し原判決には所論のような理由のくいちがいの違法があるとはいえない。
(イ) 所論のランダール・ゴールドン(ゴールドン・テイー・ランダール)の盗難被害顛末書並びに盗難被害追加届書には、いずれも右本人の署名があるのみでその押印がないことは所論のとおりであるが、刑事訴訟規則第六十条が作成者の署名押印を要するものとしたのは要するにそれが真正に作成されたものであることを担保するための規定と解せられるから、本件の如く外国人の作成名義の書面にその本人の署名がなされている場合には、押印がないからと言つて、右書面は同規則に反する無効のものということはできない。
(ロ) 又右各書面は代書者がその旨を記載し、押印していることは書面自体において明白であるから、この点の論旨も採用に値しない。尤も右盗難被害顛末書には代書者の押印があるのみでその署名を欠くがこれを以て右書類の効力を害するものと認められないことは前段に説示したところと同一である。
(ハ) 更に右盗難被害顛末書に添附せられた被害金品目録は、所論のように通訳小林国雄の通訳により司法巡査関明が、代書作成し、被害者たるゴールドン・テイー・ランダールの署名を得たものであつて、右目録を検すれば、その各葉に右被害者自身の署名(又は略式署名)があり、且つその被害品目は番号を逐つて列記せられているのであつて、その内容記載に徴し、所論のように第三者が恣にその品目点数を増減した形跡は毫も認められないのであるから、右目録は前記盗難被害顛末書と附加して一体をなし、その内容の一部を成すものと認めることができ、その間契印を欠くとの理由により、盗難被害顛末書とは無関係な書面であるとは解せられない。以上の諸点に関する所論は書類の形式の末節を捉えてその書面の証拠力を否定せんとする強弁に外ならない。
(ニ) しかして被告人は原審公判廷において、起訴状記載の公訴事実はそのとおり相違ないと述べてあるのであり、前記ゴルドン・テイー・ランダール名義の盗難被害顛末書及び盗難被害追加届によれば、同人の窃盗被害は判示写真機、腕時計、ラジオ、衣類等合計六十一品目、百五十二点現金千八百五十円軍票九十五ドルに及ぶものである。しかして三宅照夫が本件犯行前単独に右ランダール方から窃取した品目は首飾、耳飾、腕輪等約十組、金指輪一個、金時計一個、金ペン万年筆一本合計十数点に止るのである(同人の司法警察員に対する第一回乃至第三回供述調書(写)参照)から前記被害顛末書及追加届記載の被害品目中に右三宅照夫の単独犯行による被害品を包含するとしても、(而して三宅の単独犯行と本件犯行以外に右被害者方に当時窃盗被害があつたとの事実は一件記録上到底これを認めることができない)尚本件犯行による被害とされる品目の点数は原審認定の公訴事実記載の点数を超えることは明白である。従つてこれを右自白と総合して判示事実を認定することは何ら理由にくいちがいがあるものとはいえない。
要するに論旨はすべて理由がない。
註 本件は量刑不当にて破棄。